「ラストスパート。」
「…あー。最悪…」
すでに、はばたき学園に続く長い坂道は生徒で溢れていた。
珍しく朝寝坊をした和馬は、久しぶりのその光景に自然と口からため息が漏れ、ガックリと肩を落としたままのろのろと歩いていく。
中には見知った顔もちらほらしていたが、声を掛ける気にもなれずそのまま流れに身を任せ教室まで到達しようと考えていた。
「…鈴鹿」
「あ?…ああ、あー…葉月?だっけな。どうしたんだよ?」
「…おはよう」
「へ?ああ、おはよう…」
突然声を掛けられ驚きつつも挨拶を返せば、あの有名な葉月珪だということに気づき、何か用だろうかと葉月の返事を待つが、 それ以上何を言う訳でもなく、至極当然のように和馬の隣に陣取り同じようにのろのろと歩いた。
葉月の周りだけ時間がゆっくり動いているような錯覚を覚え、慌てて辺りを見回すと、相変わらずせかせかと何かに背中を押されているように歩く 生徒たちが居て、僅かに首を傾げた和馬だったが、葉月に背中を押され「急がないと遅刻する」と注意を受けた所で慌てて歩き始める。
それでも急がないと、と注意した葉月自身はとてつもなくゆっくりとした動きで歩くので、 焦れた和馬が手を引っ張り、早足で歩く生徒達の流れに乗った所でようやく安堵を含んだため息を洩らした。
「葉月、もっと早く歩けよ」
「…これ以上か?…無理だろ」
先程よりはやや早足になったものの、この調子では遅刻してしまう、と掴んだ葉月の腕を少し強めに引っ張る。
400m走に出た葉月がどれほど早かったのか覚えている和馬は、素直に顔を顰めて葉月を見やるが、葉月は相変わらずの涼しい顔で、 引っ張られた腕を振り払うことも無くただ両脚を交互に出す仕事を延々とこなしているだけだった。
そうこうしているうちにようやく校舎まで辿り着くことが出来、時計を見ると案外時間も残っているので良かった、間に合ったかと隣に居る葉月に視線をやれば、 葉月も此方を見ていて、どうかしたか?と首を傾げれば、控えめに葉月が自分の腕を指差す。
「え?あ、悪ィ!」
「…いや、別に…」
どうやら葉月の腕を掴んだままだったようだ。
慌てて離し、気まずさに頭を掻いて誤魔化すように笑うと、葉月もつられて僅かに微笑む。
「………」
「…どうかしたか?」
「え?…あー、いや…。お前が笑うのって初めてみた、から。いっつもムッツリした顔だろ?」
「…そうか?」
ゆっくりした動きで首を捻る葉月に、案外はば学の王子様もそうとっつき難いヤツじゃないという事が分かり、和馬は笑って「そうだよ」と答えた。
「ホラ、早くしねーとマジで遅刻しちまうぜ!」
「…まだ2分もある…」
「もう2分しかねーんだよ!!」
クラスに着くまで安心は出来ねーんだ、と上履きを履き終えた和馬は、ようやく靴を靴箱に終い、上履きを手にした葉月の腕を引っ張って最後のラストスパートをかけた。
「なぁ、葉月」
「…何だ」
「俺の名前、どうして知ってたんだ?」
「…ああ…有名、だから。…かな」
「有名!?…俺が??」
「…ああ」
「へぇっ、俺もお前みたいに有名人なのかな」
「…俺?」
「っておい、お前以上に有名人なヤツこのはば学でいねーだろ」
「…そうでもないと思うけど」
「ハハ…」
言い訳(後書き)
痛みのお題が痛みじゃなくなってますね(爆)
ガイルクの方はしっかり痛んでますので、こんな甘いので許して下さい…orz