「温度の低い星。」
補習よってたっぷりと日が暮れた頃、人気の少ないはばたき学園へと続く坂道を、 寒さに身を縮め、ポケットに手を突っ込みながらだらだらと歩く鈴鹿は、首が痛くなるほどしっかりと空を見上げてぽつりと吐いた。
「星ってよ…色とかねぇのかな?」
そのなんとなしの質問に、同じようにだらだらと歩いていた姫条が空を仰ぎ見て目を細め、白い息を吐き出しながらくつくつと笑った。
「なんや和馬、そんな事気にしてどうするん?」
「いや、別に…ただ、気になっただけだよ」
姫条の笑いを揶揄と受け取ったのか、拗ねるように口を尖らせた鈴鹿はすぐに視線を落としてしまったが、姫条は相変わらず空を見上げたままで 再び楽しそうな笑みを零して「そうか」と呟くように言った。
「…あ、あの星赤っぽいな。あんまり温度の高くない星なんやろ」
「はぁ?」
「赤、橙、黄、緑、青、紫…の順番やったかな。星にも色があるねん。 赤っぽい星は温度が低くて、温度が高くなると青とか紫に見えるらしい。…その星の温度によって、出せる色も限られてくる。 例えば地球みたいに赤い色も出されへん星もある。地球は赤外線くらいしか出てないやろ?」
相変わらず空を仰ぎ見る姫条につられ、鈴鹿も視線を上にあげれば、先程とはまた違ったような、星一つ一つが輝いて見えて。 どうしてこうも一人で見た空と、姫条と一緒に見た空は違って見えるんだろうとぼんやり思いながらだらだらと歩いていると、 急に腕を引っ張られて抱き寄せられた。
何するんだ、と焦ったような声を上げ、抱き寄せられた姫条の胸を押して離れようとするが、 鈴鹿が周りを気にしていることすらお見通しのようで、姫条は「誰も居らんって」と笑いを噛み殺しながら耳元で囁くものだから、顔を真っ赤にした鈴鹿は抵抗出来ずに仕方なく姫条の肩に額を押し付ける。
「姫条さ。…変なとこで頭意外と良いんだよな」
「今日地学でやっててな。へぇ、そうなんや、って思ったから、何となく覚えとっただけや」
「それでも、俺は星の事なんて絶対覚えてらんねーけどな」
肩に埋めていた顔を上げ、照れたように小さく笑った鈴鹿を見下ろしながら、姫条が頬を掻いて苦笑したのに気づくと、 どうかしたか?と鈴鹿はきょとんとした表情で首を傾げて。そんな鈴鹿に再び苦笑すれば、軽く屈んでちょん、と触れるだけのキスをした。
これ以上そんな可愛い顔してどうするねん。…野外でもなんでも、所構わず襲ってしまいそうや。
そんな牽制を込めたキスだったが、鈴鹿は一瞬でパッと顔を赤らめ口元を覆い、けれどとても嬉しそうに笑ったから。
無論鈴鹿としては姫条に見えないように俯いたつもりだろうが、目ざとい姫条はしっかりとその表情を目に焼き付けておいた。
「なぁ、そろそろ帰ろうや」
「…あ、ああ。…だな」
姫条の差し出した手に一瞬躊躇い、「ほら」と急かす姫条に仕方ねぇな、と余計な一言を付け加えて、鈴鹿がそっと握る。
いつに無く素直な恋人に嬉しそうに笑みを零した姫条と、そんな姫条を見て頬を赤く染める鈴鹿と。
温度の低い星の上で、二人の熱が冷めることは、きっと無いのだろう。
はばたき学園に続く坂道をゆっくりと下る二人の手は、しっかりと繋がれていた。