今日が今日であるうちに、お前に伝えたい事がある。

出来れば俺がかっこよくバスケの試合に勝った後で。

伝えたい想いがある。








「 今 日 が 今 日 で あ る う ち に 。 」












「…あー…?」

テーブルの上に放置されていた携帯が、自分の存在を主張するかのようにやかましく鳴り始めた。こんな時間に誰やねん、と内心毒づき、テレビを付けっ放しにしたままうとうとしていた姫条が、眠たい目を擦りながら電話を手に取る。

「あ、姫条っ?俺だよ俺」

「…なんや、和馬かいな。…ジブンがこんな時間まで起きてるやなんて珍しいな。明日雨でも降るんとちゃうか」

途端に聞き慣れた鈴鹿の声が聞こえ、健康生活を絵に描いたような彼の生活を軽く揶揄すと、普段なら悪態の一つや二つ飛んできそうだったのだが、その日の鈴鹿は「ああ、まぁ…」と歯切れの悪い返事を寄越した。
それに違和感を覚えた姫条が「どうしたん?」と声を和らげて促せば、電話の向こうの鈴鹿は、それっきり黙ってしまう。
姫条を頼って電話をしたのはいいものの、衝動的だったらしく今更どう言えばいいのか分からずに迷っているらしい。全く、なんていい迷惑だ、と姫条は小さく苦笑した。

「和馬、はよ言わんと電話切ってまうで」

「え、ちょ、待てよ、分かった、言うから!!」

途端に慌て始めた鈴鹿に、姫条はそっと笑みを浮かべるが電話越しの彼には分かるはずもない。何度か「えー」と繰り返した後、鈴鹿は酷く早口でしかもボソボソと小声で白状した。

「………き、今日さ、バスケの試合なんだよ…//」

「は?…え、で?もしかして俺に電話してきたのってそれだけのため?」

「そ、それだけって!お前バスケを馬鹿にしてんじゃねーだろーな!!」

「ちゃうけど、それだけかいっ!」

何の話かと期待して待っていればこれか。なんなんだ。
姫条の落胆は鈴鹿にも伝わったのだろう、先程以上に焦った鈴鹿がごめん、と小さく謝る。

なんやねん、謝るくらいやったら電話掛けてこんかったらええのに。

内心冷静にそんな事を考えながら、すっかり黙り込んでしまった鈴鹿に溜息を一つ吐いてから「で?」と先を促した。
三ヶ月に一度あるバスケの試合は、さほど珍しいというわけでもない。
それなのにわざわざ今日そんな事を報告するということは、もっとちゃんとした理由があるに違いないのだ。

「もしかせんでも応援に来て欲しいとか?俺に?…ジブン、もっとあれやで…そんな事頼むんやったらかわええ女の子をやな…」

「お、女とかめんどくせーし、すぐ泣くしウゼーし要らねーよ…っ!」

折角女の子の良さを姫条がこれから教えてやろうと思ったのに、喚くように鈴鹿ががなる。話しの腰を折られ、これやからお子様は、と姫条が揶揄するように言ってから肩を竦めた。

勿論肩を竦める仕草が鈴鹿に見えるはずもないが、馬鹿にされたことだけはしっかりと感じた様で、面白く無さそうに鼻を鳴らして不満を訴える。
きっと今電話の向こうで、鈴鹿は口を尖らせているに違いない。それを想像しくつくつと姫条が笑う。
一体今日の試合がどれ程鈴鹿にとって大切なものかは分からなかったが、元々頼まれると断れない性質だ。

明日はガソリンスタンドのバイトも無いし、しゃーないな。行ったるか。

「あ〜、分かった分かった。行ったるから。自分はよ寝んと明日起きれんやろ。良い子ははよ寝るもんやで」

子供扱いしやがって、とぶつぶつ文句を言う鈴鹿をなんとか宥めながら「今日、楽しみにしとるわ」と囁いてやれば。 きっと真っ赤になっているだろう鈴鹿が一瞬黙って、任せてろ、と意気込む。

「ほんなら、今日。学校でな」

「…おう」

嬉しく思う気持ちを隠そうとわざとぶっきら棒な口調になってしまう鈴鹿の癖は相変わらず、らしい。
切れた電話を耳に押し当てたまま、姫条は小さく笑った。