草ちゃんは変わったと思う。
でも、それは俺が変えたわけじゃあない。
俺はずっと立ち止まったまま。
草ちゃんはどんどん先へ進んでいく。
それを追いかける気力なんか、もう無い。
振り向いてくれるはずもないのに、ただただ、ずっと立ち止まって、草ちゃんが振り向いてくれるのを待っている。
「僕はここに居るままで。」
「草〜ちゃん」
「何、キオ」
低い声。優しげに目を細め、軽く首を傾げた。
知っている。
俺は、その顔が、細めた目が、声が。
偽りだと、知っている。
「機嫌、悪いでしょ」
「…なんで分かったの?」
分かるに決まっている。
俺は、お前だけ見て生きてるんだから。
そんなの、当り前じゃないか。
「何となくぅ?」
にへら、と笑って同じように首を傾げると、珍しく草灯はくつくつと、声とたてて笑った。
ただ、それだけの事すら、俺は嬉しくてたまらない。
草灯の首に両腕を絡ませ、甘えるように名前を呼んだ。
いつもなら、やんわりと自然にその腕を解かれるはずなのに、今日の草灯は止めようとしなかった。
いいの。
抵抗しないと、本当にヤッちゃうよ?
耳元でそう囁くと、意味ありげに笑った草灯が、僅かに前のめりになって俺の頬に軽く口付けてくる。
いつもと違う反応に思わずビクつくと、草灯はまた面白そうにクスクスと笑った。
「草ちゃん」
「何?」
「怒ってるでしょ」
「…うん」
「これ、八つ当たり?」
「うん」
「ヤッていい?」
「キオがしたいなら」
「ホントに?」
「うん」
「後悔しない?」
「ヤらないと分からないよ」
「確かに」
「うん」
好きだよ。
草灯のためなら、死んだっていい。
俺じゃ駄目なの?
呟きにも似たその問いに、草灯は笑っただけで答えようとはしなかった。
「好きって言ってよ」
「…好きだよ」
「もっと」
「好きだよ、キオ」
「…そう、ちゃん…っ」
やっぱり、草灯は俺なんか置いてさっさと一人で行ってしまう。
俺は、今更追いかけようにも離れすぎてて、追いかける気にもならない。
にこりと笑った草灯は、あのガキに言うみたいに、また好きだよと言った。