いや、でもだって、これは運命だと思うから。
※完全にパラレルとなっているのでご注意下さい。※
ルーク(レプリカ)が生まれていない、アッシュは修行中で旅しているという設定。
ファブレの名で旅をするのは危険だと判断し、アッシュと名乗る。
ゼロスはアッシュが立ち寄った町の貴族。生みの親、特に母によく似た風貌。
そのため母の死後、父親の再婚相手に酷く虐められている。
現在アッシュ18歳、ゼロス23歳設定。基本的にはアビスの世界です。
そう遠くも無い過去の話だったが、あれから随分と時間が経ってしまったような気がしていた。
季節は春。桜の花びらが鬱陶しいくらい風に吹き散らされ、それを何だか物悲しい心境で眺めていたアッシュに、同じ緋色の髪を持った彼が興味津々といった面持ちで話しかけてきたのが始まりだった。
なんだこいつウゼェ、俺に構うんじゃねぇよ屑が、と不機嫌顔丸出しにしたアッシュだったが、 ゼロスと名乗った青年は、牽制を込めた睨みにもへらへらと締まりのない表情を浮かべながら、 桜の木に持たれて座り込んでいるアッシュの隣に当然といったような、ごく自然な仕草で座り込んだ。
「俺様、この近くに住んでるんだ。…キミはこんな所で何やってんのよ?」
「…別に何もしてねぇよ」
俺様、とかなり変わった一人称と、何の気負いも無くべたべたと親しげな口調で話しかけられた事に多少ながら動揺しつつ、 ちらりとゼロスに視線を寄越せば、ゼロスはまじまじとアッシュを、正しく言えばアッシュの髪を見詰めていた。
「…な、何だよ」
「え、いや。…キミは髪の色嫌じゃないのかなって」
ゼロスの口調からすると、どうやらゼロスは緋色の髪が気に入らないらしい。 思わず自分の髪に触れたアッシュに、ゼロスは「いいなぁ」と何処か夢見心地な様子で目を細め、優しく微笑んだ。
何が羨ましいのか。アンタは自分の髪が嫌なのか。 何故だかとても気になってしまい、それを聞こうと口を開いた瞬間、狙ったかのようにゼロスが名前教えて、と甘くねだるような口調で言った。
「教えねぇ」
「何で?俺様教えたじゃん。不公平、教えてよ」
「うるせぇぞ屑。黙れ」
「教えてくんなきゃハニーって呼ぶから」
本気ともとれるゼロスの脅しに、アッシュは口元を軽く引きつらせながら慌てて「アッシュだ」と吐き捨てるように遅い自己紹介を行った。
ハニーなんて変な呼び方まっぴらだった。ゼロスと出会ってからそう時間も経っていないが、彼なら本当にそんな風な呼び方すらも 躊躇うこと無く、かつ大声で恥ずかしげも無く呼びそうだったので、不本意ながら自分の名前を名乗る羽目になってしまったのだ。
へぇアッシュって言うのか。なんかカッコイイね、俺様と名前交換しない?
相変わらず掴み所の無いへらへらとした笑みを浮かべて首を傾げたゼロスから視線を外し、小さく溜息を吐けば、 自分の名前嫌いなの?と全く検討違いな質問をされ、いやむしろ自分の名前よりお前が嫌いなんだよと心の中で毒づいてみても そんな事ちっともゼロスは気づかないらしく、ねぇねぇと子供が甘えるように軽く腕を掴んで自分の方へ注意を向けようとする その仕草で、アッシュの小指の先ほども無い忍耐力が悲鳴を上げる。
頼むからあっちへ行ってくれ、ウゼェ、ほんっとウゼェ!!
「いや、でもだって、これは運命だと思うから。」
「あれ、アッシュくん、また桜の木の下でお昼寝?…ホントに桜好きだねぇ」
まどろみの中からハッキリと覚醒するまでに少し時間がかかった。 桜の木に凭れて視線を上げれば、あの時と変わらず、締まりの無い表情で此方を見下ろすゼロスと目が合った。
初めて出会った時から、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬も過ぎて春が来た。季節は一巡りし、アッシュとゼロスの関係も随分と変わってきたように思う。
垂れてきた前髪をかき上げる仕草を見て、だから俺みたいにバンダナすればいいのにと冗談混じりにゼロスが言った。
アホか、そんなの俺が出来るわけねぇだろ。ええ、でも案外似合うかもしんないじゃん。 そんなやり取りを交わしながら、しゃがみこんだゼロスの髪を軽く引っ張ってみた。
「ハニー?…どうかした?」
人の気を読む事に長けるゼロスは、自分の髪を引っ張るアッシュの手に触れて優しく微笑む。
ああ、それだ。初めて会った時も、ゼロスはそうやって、なんだか全てを見透かしているような、そんな笑みを浮かべていた。
「お前と初めて会った時の事を夢に見たんだ」なんて、アッシュは素直に口に出せるような性格はしていない。
無論それもゼロスは見通していたらしく、黙り込んだアッシュに気遣い何でもないならいいんだけどね、と笑って小首を傾げた。
「ハニーって呼ぶなよ」
「何でよ、可愛いじゃん」
髪を引っ張っていた手をそっと離すと、ゼロスはやはり当然のように隣に腰を下ろし、桜の木に身体を預けて空を仰ぎ見る。
諦めを含んだため息を吐いて、アッシュも同じように空を見上げた。
「ねぇ、アッシュくん」
「何だ」
「空綺麗だね」
「いつも通りだろ?」
「…かな?」
「ああ」
「そっか」
「ああ」
俺様は綺麗だと思ったんだけどなぁ、と拗ねたように口を尖らせて呟いたゼロスに視線をやって、 こんな桜なんかよりお前の方がずっと綺麗だ、なんてクサイ台詞を思い浮かべてみた所で、それを実際アッシュが口にすることなんて無く。
誤魔化す様に咳を一度してからアッシュはそっと己の隣に座る人物を盗み見て。
やっぱり綺麗だと思った。
自分と同じ緋色の髪でも、ゼロスの髪は柔らかくて女のようだった。
すらりとした四肢、色素の薄い肌。それから、桜色の唇も。
そうやって暫くゼロスに見惚れていると、桜を眺めていたはずのゼロスがふいに此方を向いて。
パチリと合わさった視線。
それにアッシュが驚く前に、ゼロスの唇が開かれる。
「アッシュくん?どうかした?」
「っえ、は…っ!?」
小さく笑うゼロスはきっと、アッシュがゼロスを盗み見ていたことに気づいている。
じわじわと赤らむ頬を気にしながらも、アッシュがどう誤魔化そうかと四苦八苦していると、ふっと鼻先を掠めた。
甘くて、けれどぎゅっと胸が締め付けられる、そんな切ない匂い。
これは、きっと―。
「ねぇ、ハニー…?」
「な、ん…っ!」
甘えるような声。それと同時に、アッシュの唇に柔らかいものが押し付けられた。
思考が全て奪われる。頭の中が真っ白になって、先程まで何を考えていたのかすらも思い出せない。驚きで何も考えられなくなった。
ちゅく、と吸われる、誘うように。くらくらと眩暈に似た症状を起こす。息を上手く吸い込むことも吐き出す事も、忘れてしまったように出来ない。
「っぜろ、す…っ!」