先程まで浴びるように酒を飲んでいたと思ったら、 次の瞬間そのままごろりと床に寝転んでいて、寝つきの良さに関心しつつ何やら訳の分からないテレビ番組を見ていると、 急にずしりと背中に重みを感じ、首だけ動かして後ろを見れば、抱きつくようにして行天がぴったりと張り付いていた。
嫌な予感に囚われながら何だ、と聞いたら、
「セックスしたい」と多田に言ったのかそれとも独り言だったのか、よく分からないような台詞を、行天は小さな溜息と共に吐き出した。
「だからこそ貴方と。」
「…待て」
急な出来事だったために多田の反応はやや遅れたが、待て、と三回ほど繰り返してどうにか行天から離れようと試みた。
行天は酔っているくせにやけに力は強く、床に座った多田が無駄に頑張って自分と行天をずるずると引きずり、それでもほんの少し移動しただけだった。
勃起した行天のそれが多田の背中に当たっている。否、押し付けられているのかもしれないが。
したいと言ったきり何も言葉を発しない行天にもしかしたら寝てしまったのだろうかと甘い期待を抱いたが、急にわき腹に伸ばされた手に驚いたと同時に、 「寝てないよ」とまるで多田の心を読み取ったかのように静かに言った。
正気か、と問えばうんと返事が来る。むしろ狂ってた方が数倍マシだって、と軽口を叩くような余裕は、どうやら無さそうだった。
「知ってるでしょ」
「…何が」
「俺が童貞だって」
「……まぁ」
だからつまり協力しろと言いたいのだろう。
この歳まで童貞守っておいて何故今更卒業しようなどと思ったのか、いや、それ以上に多田は男で、それって童貞卒業って言わないんじゃないの?
そりゃあ、穴に突っ込む行為は同じかもしれないが。
凪子さんとは人工授精だったからね、と一度凪子から聞いた事を口にした行天が、わき腹に触れていた手を徐々に下へ移動させてくる。
おい、と焦った多田は行天の手を掴んだが、それが運悪く右手の小指で、それに触れた途端驚いて手が勝手に引っ込んだ。
その隙に行天は器用な手つきでもって多田のジャージに手を突っ込み、おまけにその手を下着の中まで進入させることに成功した。
こんな事になるのならゴムの緩いジャージなんて穿かなきゃ良かったと今更後悔してみたけれど、それは本当に今更で、 男の弱みであるそこと握られれば流石に多田も力任せに抵抗する事が出来なくなった。
「こらっ!行天…!」
「うん?」
「手を離せっ!」
「…ヤダ」
お前は小学生か、と口を開きかけた所で、握るだけだった行天の手がゆるゆると動き始める。
結局開きかけた口から出たのは妙に甘ったるい溜息だけで、調子に乗った行天は余ったもう片方の手でずるずるとジャージもろとも下着を 引き摺り下ろそうと頑張っていた。
「ね、え。…気持ち良い?」
二本の手に忙しなく別々の仕事をさせながら、それでも行天は口を休めるということをしなかった。
扱かれているうちに、緩くだが勃ち上がってきた自身を激しく呪いながら、行天の問いには沈黙を決め込むことにする。
「多田、ちょっと。…答えてよ」
多田が口に出すまでその問いはきっと恐らく続くだろう。
結局すっかりと勃ち上がってしまった自分のそれにちらりと視線をやり、何だかとてもいけないことをしているような気がして、 顔ごと視線を逸らし、ぎゅっと目を瞑った。目を瞑れば分かりっこない。
それでもしつこく先程の質問を繰り返す彼に「煩い」と一言言うつもりで口を開いたが、狙っていたかのようにペニスへの刺激が強まり、 鼻にかかったような声が自然と漏れる。行天が「あ、気持ちいいんだ」と嬉しそうに言った。
「言ってくれないと分かんないじゃん」
口に出さないと分からないのかお前は。
ちんこ勃ってる時点でそれくらい分かるだろうに、冗談なのか本気なのかよく分からない行天の訴えをわざと聞き流しながら、 相変わらず背中に当たっている勃起したペニスに妙に苛立ち、せめてもの仕返しにと、行天のペニスに背中を擦り付けるようにして動いた。
う、と背中で息を詰める行天にざまぁみろこの童貞野朗とぶつくさ吐きながら、動きの止まった行天の手から逃れようと体を浮かしたが、 尻の辺りで止まっていたジャージを掴まれ、危うく顔面を床へ打ち付ける所だった。
「ああもう、危ない」
「誰のせいだ誰の」
「…俺かな?」
どうにか顔面からの転倒は避けることが出来たものの、ジャージは足首に絡まっているわ、四つんばい状態で行天に尻を突き出したような顔から出るような格好だわで、 何だか多田はもう全てがどうてもよくなってきた。
背後でのんびりと首を傾げる気配に苦笑し、多田がとりあえず起き上がろうと膝を立てる。
「うわ、エロ」
「じゃかぁしい!」
「…じゃあ淫乱」
「なお悪いわ!」
何だかんだ言いながらも再び寄ってきた行天の手を振り払うことは無く、四つんばいのまま大人しく行天の遊びに付き合ってやることにした。
何やら濡れた感触に眉を顰め、あ、舌か、と納得して小さく溜息を吐いた。
得体の知れないものほど恐いものは無い。それが何かきちんと判明してさえいれば、大概の物は平気な性質だ。
未だ萎えること無く元気に存在を誇示している多田のペニスを扱きながら、奥で息づく孔に舌を這わせる。
こいつ案外慣れてるんじゃないの、と言いたくなるほど行天は手馴れていて、だからなのか、初めて受け入れる指の異物感すらあまり感じずに、こんなものなのかと呆気なく感じる程だった。
「ね、…いい?」
「いいも何も…なぁ」
「うん。ならいいよね」
多田の、精一杯の嫌味すらさらりとかわした行天が、ズボンの前を寛げて痛いくらいに勃ち上がっているそれを押し付けてくる。
一瞬息を飲めば、力抜いて、と宥めるように自身を扱かれ、この生意気な童貞めがと思ったが、流石に悪態をつける程の余裕は無かった。
「っあ…ふ……ぅ…」
「多田…、ん…っ」
四つん這いになった多田に覆いかぶさるようにして、ゆっくりとペニスを挿入していく。
流石に指と質量は違うか。痛い、と声を上げそうになるのを我慢し、唇を噛んだ。
汗がふつふつと噴き出す。じれったいほどにゆっくりと入ってくるそれを思わず締め付けると、行天が小さく呻いて身じろぎした。
痛いかと問われれば、小さく、けれどもしっかりと首を振って答えた。大丈夫だ、と。
本当は痛かったけれども、そう言ってしまうと、間違いなく行天が止めると言い出すのは分かっていた。
あれだけ強引なくせに変に律儀な男だから。全く、と小さく笑った多田に、全てを収めきった行天が「どうかした?」と聞いてくる。
何でもないよと答えておいて、再び口元に弧を刻んだ。
「…動いていい?」
「いちいち許可取るなよ…」
「じゃあ動く」
ぴたりと背中に引っ付き、行天がぎこちなく腰を動かし始める。
それに抵抗することなくゆらゆらと揺さぶられながら、今行天はどんな表情をしているのだろうかと、それだけがただ気になった。