アリス

僕らのアリス

あなたの
腕を
足を
首を
声を僕らに下さい

あなたを
傷つけるだけの
世界なら
捨ててしまって

千切れた身体は
狂気に包まれて
穏やかに眠る

さあ
目覚めることのない
悪夢を
あなたに…





「僕のアリス。」












「ん、む…」

ぼんやりした頭で、あれあたしいつの間に寝ちゃってたんだろう、なんて考えながら ゆっくり目を開けると、何故かそこには視界いっぱいにチェシャ猫の顔があった。
この不思議な世界に来て、もしすぐにこんな状態に陥っていたならば、アリスはきっと心臓麻痺で死んでいたいに違いないだろうけれど、 素晴らしい程の順応性を持った彼女は、もうチェシャ猫の裂けた口も、怪しげな灰色のフードも、一度も見たことのないフードの中身も すっかりと言っていい程慣れてしまっていたので、目の前にチェシャ猫のニヤけた顔にどうしたの、と酷く能天気な声で問いかけるだけだった。

「うん?アリスが寝てしまっていたからね」

「あ、ごめんチェシャ猫。ずっと肩貸してくれてたんだ」

謝りながらも、寝起きの身体はチェシャ猫に凭れかかったまま、すっかりと力が抜けきってしまっていて、中々アリスの云う事を聞こうとはしない。
するとチェシャ猫が、目を擦りながら欠伸を噛み殺すアリスの身体を支えながら「アリス、可愛かった」なんて言うものだから、流石のアリスも、しつこく残っていた眠気すら吹っ飛ぶ勢いで驚いた。

「ち、チェシャ猫…っ?」

「…どうかした?」

聞き間違いか何かかと思い、チェシャ猫の肩に預けていた頭を起こしてまじまじと彼の顔を見詰めてみるが、 やはりニヤけた顔はいつも通りで、そうなると聞き間違えかな、と首を傾げると、チェシャ猫は「アリス、可愛いね」と再度繰り返してくれたので、ようやくあれは聞き間違えじゃなかったんだと理解した。

「ちぇ、チェシャ猫、…可愛いの意味分かってる?」

「うん、何となくね」

「何となくって…、もう、あたし可愛く無いんだから、あんまり面と向かってそういう事言わないでよ」

「でも、僕はそう思ったんだよ?」


アリスは可愛らしいから。
食べてしまいたいくらい、とても可愛らしく、愛おしいから。


ニヤけた顔でそんな事を言われてもいまいち説得感が無い上に何だか恐い。 また何か企んでるんじゃないでしょうね、と疑いの目を向けてみたが、チェシャ猫はニヤニヤ笑っているだけで何も答えてはくれなかった。
そうなると誰よりも分かり難いチェシャ猫の考える事だ、いくらアリスが時間を掛けて考えてみたとしてもきっと分からないだろうし、そういう事はもう考えない、これに限る。

「と、兎に角この話はおしまい!!//分かった!?」

「…僕らのアリス、アリスがそれを望むなら」

結局強引に話しを反らすことにしたアリスだったが、静かに決まり文句を言ったチェシャ猫のニヤニヤ顔がいつもよりもずっとニヤけているように見えたのは、もしかしたら アリスの顔が赤くなっていることに気づいていたからかもしれない。