呼ばれた気がした

読んでいた本から視線を外し、ゆるゆると顔を上げれば

随分離れた所であの人が手を振っていた

軽く手を振り返すと、何故か余計に強く振り返してくる

お互い何回かそれを繰り返し、たまらなくなった私は赤い顔を隠すように再び本に視線を落とした








「上手く言えないけれど。」












「おい、サフィール、なんで無視するんだよ?」

小さい頃からそうだった。
ピオニーはこうやって、いつも私の事を誘いに来てくれた。
それが子供の頃の私にとっては、嬉しかったことなのかどうかは疑問として。

不服そうな表情でずかずかと歩いてきたピオニーが、偉そうに私の前で仁王立ちになる。
私はといえば、読んでいた本が彼の影ですっかり見えなくなってしまったものだから、少し眉を寄せて視線を彼に移した。

「もう、そんなことより、ピオニーのせいで本が読めなくなっちゃったじゃないか。そこ退いてよ」

「そんな事ぉ?大体お前、外まで来て本読む馬鹿が居るかよ、折角俺が雪だるま作って遊んでやろうってのに!!」

びし、と作りかけの雪だるまを指差し、ピオニーが途端甘えた声で「なぁなぁ、やろうぜ〜」と私の腕を引っ張る。
私の事なんて放っておいてくれたらいいのに、と引っ張るピオニーの腕を振り払い、
折角先程から座っていてようやく体温に馴染んできた階段だったが、仕方なくずり、と横にずれた。
そのお陰でピオニーの影から脱出出来た本にまた視線を落とせば、しつこい彼はまた私の目の前に立ちはだかる。

「サフィール〜〜」

「あーもう…。僕は本読んでるじゃないかぁ。…一人でやっててよ」

「駄目だ、一人だとつまんないだろ。…だから一緒にやろうぜ」

な、と私の顔を覗き込みにっこりと笑うピオニーによく分からない感情がもやもやと心の中に広がって、 それは今までに経験のしたことのない感情だったから、私はよく分からなくなってしまった。
きっと私はとても複雑な顔をしていたんだろう、ピオニーは顔を覗き込んだままでどうかしたか?と首を傾げる。

「サフィール」

何でもない、と俯いたまま首を振ったのに、咎めるようにいつもより低い声で呼ばれ、何故だか泣きそうになってピオニーの顔を見上げた。

「…俺、さ…」

「え…?」

「……、だよ」

「…っえ…?」

聞き取れずに思わず聞き返してしまうと、ピオニーが困ったような表情で笑い、曖昧に誤魔化してしまった。
そんな顔を呆然と見詰めながら、ああ、多分、私はこの人の事を、とても大切に思っているんだ、と思う。
ジェイドに抱く感情とはまた違っていて、私は、こういった感情をまだよく知らないから、上手く言葉では言い表せないけれど。
でも、とても大切に思っている事だけは確かなんだろう。











「お前さ、初めて俺が好きだって言った日覚えてるか?」

「え…?そ、そんなの知りませんよ!!」

「ちぇ、あの頃のお前ってジェイドジェイド、ってジェイドの尻ばっか追い掛け回してたもんなぁ。そりゃ今も変わんないけど。
…って何笑ってるんだよ?」

あの頃と同じように困ったように笑った彼はちっとも変わっていなくて、子供のようで、可笑しくて笑ってしまった。