「 打 っ た 。 ( 打 た れ た ) 」












ゆっくりとした動き―例えば転ぶ時やけに景色がスローモーションに感じる、それ系統の感覚―で、ジェイドが右手をあげる。

ああ、来る!

刹那、きっと振り上げられたジェイドの手は清々しいほどの乾いた音と共に、俺の左頬に見事にクリーンヒットしていて、 その痛みのせいで涙目になりつつも頬を押さえ、間抜けな表情で呻く俺が容易に想像出来た。

さっさと覚悟を決めて諦めてしまえばいいのに、俺は正直痛みというものにとても弱く、だからずるずるといつまでも引きずって、今回も 「ジェ、ジェイド!」なんて間抜けな声を上げなんとかその瞬間を先送りしようと諦め悪くいつまでも踏ん張っていた。

何ですか、と不機嫌顔丸出しのジェイドが短く答える。ゲ、これで余計に怒らせたなんて言わないよな?

極度の緊張と上手く回ってくれない俺の頭にイラつき、ちょっぴり涙まで出てきた。
まだ何もやられてねーっつーの。
何処までもヘタレな俺の根性は、ちっとも直っていないらしい。
何でもない、と諦め上目使いをやめて大人しく視線を床へ下ろせば、途端にバチン、と大きな音が耳元で響き、それと同時に頬に鋭い痛みが走る。

い、痛い!

痛いなんてもんじゃないだろ、これは!!

不意打ちと言っていいほど唐突だった上に、超強烈だった平手打ちを、受ける覚悟なんて到底出来ておらず、力の法則でバタンと倒れこんでしまう。
例え不意打ちでも、相当な力で頬を打たない限り中肉中背の男を倒すことなど出来ないだろう。
つまり、それほどジェイドの力は強かったと云う事だ。
想像通り痛みに頬を押さえて呻いた俺は、自分の口の端からどうやら血が出ている事に気づき、余ったもう片方の手でそれをどうにか拭った。
それだけでも声を上げたくなるほどの痛みに、ああもう家に帰りたいと帰る家も無いくせに心の中で呟いた。
じわじわと涙腺から液体が分泌され、すっかり水っぽくなってしまった瞳で頬を押さえたままジェイドを見上げる。

どうにか上半身だけは起き上がったものの、未だ座り込んだ状態の俺に、ジェイドは鼻で笑って目だけで「起き上がりなさい」と言った。…ような気がした。
本当はまだ座っていたい気分だったが、あんまりにもジェイドと待たせるとまた平手打ちが飛んできかねないので、仕方なくややゆっくりとした動きで立ち上がる。
じんじんと痛む頬を気にしながら、どうしてこんな事になってしまったんだろうと気にしても仕方の無いことをぐだぐだと考え、 さりげなくジェイドを見上げると、僅かに口の端を上げているだけなのに、随分とジェイドはこの状況を楽しんでいるかのような表情だった。



言い訳(後書き)
本当に突発的にこういう文章が書きたくなるんですよね。
ドSなジェイドとMなルークが自分の中では決定付けられているようです。